「とにかくうちに帰ります」津村記久子

とにかくうちに帰ります

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津村 記久子
新潮社
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なんてことないのに面白いわ、こりゃ。
今、「なんてことないのに面白い」を書かせたら津村さんの右に出る人はいないよ。
だってさ、「自分の好きなフィギュアスケート選手が、好きになったアスリートをことごとく不調にさせてしまうジンクスを持った同僚のせいで、不調に陥るんじゃないかと心配する」ってのを、誰が小説にしようと思いますか。その勇気がすごい。そしてしっかり面白い（と私は思う）

これは表題作の「とにかくうちに帰ります」でもそうで、豪雨の中、バスに乗り遅れた人たちが、うちへ帰りたい一心で道を歩く、それだけの、ほんと、「題名そのまんまやんけ」な話なわけで。だけど、だからこそ細かい感情、もうとにかく「細かすぎて伝わらないモノマネ」ならぬ「細かすぎて伝わらない感情」満載で、そんでビシバシ伝わってくる。快感。

そんで津村さんの好きなとこは、安易に恋愛に持ち込まないところ。ハラとオニキリなんて、豪雨の中あれだけ二人きりで歩いて、ほのかに恋心が芽生えてもおかしくないのに、そうはならない。
それでいい。それがいい。
だって描くべきは、恋愛なんてわかりやすいもんじゃなくて、細かすぎて伝わらない感情だから（と私は思っている）

津村さん、実にいいです。