それから

ちょいと読んでかない?

暗闇ーー祖父のこと。

来年90になる私の祖父は、がんで入院生活をしている。
年末年始の休みで実家に帰ってきて以来、父や母が病院に毎日祖父を見舞いに行くので、私もそれについて行っている。今日で3回目の訪問。
祖父はもはや、私と姉の区別がつきづらくなっている。

今日、病院へ見舞いに行った時、祖父は深い眠りの中にいた。微熱があったようで、頭の下には水枕が置かれていた。
見舞いに来たことを知らせるためにその小さく骨ばった肩を叩いても、目を閉じたまま何かもごもごと言うだけで、目覚めてはくれなかった。

祖父は、白い睫毛をしていた。ぽっかりと口を開けて眠っている。スコースコーと息の漏れる音がする。口の中には真っ黒い暗闇が広がっていた。
祖父は昔、国鉄で働いていて、石炭の粉塵が祖父の肺を蝕んでしまったらしい。昔堅気の人で、誰よりも働き者で、誰よりも頑固でありながら、私が何か悪さをして父にこっぴどく叱られて泣いていると、「こっち来て寝ろ」と言って、私を自分の部屋に招き入れ、一緒に寝てくれた。
私はしばらく病室の椅子に座って、祖父の口の中の暗闇をじっと見た。


じいちゃんが山でマムシに噛まれた時、自分の口で刺し跡から毒を吸い取って歩いて病院に行ったこと。畑を食い散らかす野性のイノシシに一人で立ち向かってった武勇伝。今でも私のてっぱん話なんだよ。