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それから

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恋と鼻毛

以前書いたくるり のこと - それからという記事の中で、私は初対面の男性の「ねえ、俺、鼻毛出てない?」という一言で恋に落ちた、という話をした。
そういえば、もう一つ鼻毛にまつわる出来事があったなあ、と思い出した。なんか鼻毛鼻毛言っててゲシュタルト崩壊しそうなのだけれどまあいっか。

数年前のことになる。私は友達から紹介された年下の男性とデートすることになった。とても穏やかで優しくて良い人だった。色白で、笑うと細い目が糸みたいになる人。俳優・歌手の星野源にちょっと似ていた気がするので星野くんとしておこう。
初めてのデートの日、星野くんとの待ち合わせ場所に着くと、既に彼はそこにいて、笑顔で私に挨拶した。私も挨拶をした。星野くんは、私が年上だからか、ずっと敬語で喋っていて、普段ならそれがすごく堅苦しく感じられて嫌なのだが、いかにも好青年といった風貌の星野くんが敬語をしゃべると、それが彼にとっての当たり前の言語のように感じられて好ましかった。
その日のデートは楽しかった。星野くんは思った通りの良い人で、お付き合いするには申し分のない人のように思えた。ただ私には、一つ引っかかっていたことがあった。それは、彼と待ち合わせ場所で合った時から駅前でさよならする最後の最後まで、彼の鼻から一本の鼻毛が出ていたことである。

言えなかった。どうしても言えなかった。「ちょっと星野くん、鼻毛出てるよ!きゃはあ☆」とはどうしても言えなかった。それを言うには私たちの一緒に過ごした時間はあまりにも少なすぎたし、若かった。星野くんとて、私から鼻毛を出ていることを指摘されたら、相当恥ずかしい思いをしたに違いない。いや、もしかしたらそうでもなかっただろうか。「あ、マジで? ごめん☆」と言って何食わぬ顔をしてその後のデートを遂行してくれただろうか。今となってはもうわからない。あの一本の鼻毛はもうこの世には存在しない。

その後、星野くんからは何通かのメールが来て、私も返信はしていたのだが、その返信速度は徐々に遅くなり、ついには自然消滅的に私たちは連絡を取り合わなくなってしまった。
良い人で、デートも楽しかったのに、なぜだろうか? と考えると、やはりどうしてもあの一本の鼻毛が原因のような気がしてならない。別にそれで星野くんを嫌いになったわけではない。鼻毛なんて生きてりゃ人間誰でも生えているし、一本くらい出ることだってあるだろう。そんなんで人を嫌いになるほど心狭くないよ。

でも、もしかしたら。私はこう思う。私が星野くんの鼻毛が出ているのを見た時に感じたのはこういうことじゃないかと。
「私と会う前に、この人は鼻毛が出ているかどうかをチェックしてくれなかったんだ……」という落胆じゃなかったかと。そして多分、その思いは、私のあまり多くはない自分への自信を紅茶のなかの角砂糖のように溶かしていくのに充分だった。そしてそれはいつの間にか星野くんへの落胆に変わり、私はメールを返信出来なくなってしまった。恐ろしい。実に恐ろしい一本の鼻毛。

しかしその数年後出会うことになる男性から、初対面で「ねえ、俺、鼻毛出てない?」と言われ恋に落ちているのだから不思議なものである。不思議なのだが、何となくわかる気もする。なぜなら、鼻毛が出ていようが出ていまいが「鼻毛、出てない?」と聞くということは、鼻毛が出ているかどうか気にしてくれている、ということだから。だからこの場合、鼻毛が出ているか出ていないかはあまり関係ないのだ。

なんだか書いていて、かくも自分はめんどくさい女だったのか、と若干辟易もしているのだが、ちょっと面白くも感じている。とりあえず、「一本の鼻毛がその後の展開を左右することはある」、という毒になるんだか薬になるんだかよくわからない言葉を残し、星野くんの幸せを願ってこの記事を終わりにしようと思う。