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悔し涙と嬉し涙ーーMr.Children「彩り」

HOME(通常盤)
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Mr.Children
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ある日の会社帰り。帰宅ラッシュど真ん中の新宿駅発の満員電車に揺られていた時だったと思う。イヤホンからふいにこの曲が流れてきて、私は突然泣き出したい衝動に駆られた。

ただ目の前に並べられた仕事を手際よくこなしてく
コーヒーを相棒にして
いいさ 誰が褒めるでもないけど
小さなプライドをこの胸に 勲章みたいに付けて

Mr.Childrenの「HOME」というアルバムに収録された、「彩り」という曲だ。実をいうと、初めて聞いた時から私はこの曲があまり好きじゃなかった。いや、好きじゃないどころか、ほとんど嫌いだった。それはこの曲が、小さな幸せとかささやかな日常を大切にして生きていこう、みたいなテーマを掲げた曲だからだ。

僕のした単純作業が この世界を回り回って
まだ出会ったこともない人の笑い声を作っていく
そんな些細な生き甲斐が 日常に彩りを加える
モノクロの僕の毎日に 少ないけど 赤 黄色 緑

20歳を少し過ぎたばかりだった若い私は、この曲の歌詞が鼻について仕方なかった。その頃の私は、自分はそんな「小さな幸せ」で満足しないくらいデカいことを成し遂げてやると心に誓っていたし、デカいことを成し遂げるまでは生涯満ち足りた気分は味わわなくてもいいとすら思っていた。その「デカいこと」が一体何であるのか、明確にさえしていなかったのに。それが若さというものならば、それまでなのだけれど。

そうして今、その頃の私が思う「何かデカいこと」を成し遂げないまま、私は27歳になった。日々の仕事は小さな単純作業が主だ。エクセルに並べられた数字とにらめっこの毎日。「彩り」を初めて聞いた頃の自分なら、「まだそんなことやってんの」と鼻で笑うかもしれない。

有名人と比べてしまって恐縮だけれど、ミュージシャンに27歳で他界した人が異様に多いのは、音楽好きの間ではよく知られていることだ。ジミ・ヘンドリックスジャニス・ジョプリンカート・コバーン……記憶に新しいところだとエイミー・ワインハウスなど。自殺をした人もいれば、ドラッグやアルコールが原因となって死に至った人もいる。しかし、自殺してしまうのもドラッグやアルコールに溺れてしまうのも、その人の心向きが影響しているとすれば、27歳は好むと好まざるとに関わらず人間を袋小路に立たせてしまいやすい年齢なのかもしれないと思う。考えてみればごく自然なことだ。悩みを吹き飛ばせるほど若くもない。かといって落ち着いて悩みを受け止め、処理できるほど大人でもない。そんな中で自分なりの確固たる「何か」を見つけられる人もいる。それは家庭だったり、仕事での成果だったり。そしてもちろん、そのどちらもまだ手に入れたとは思えず、ただ揺るやかな時の流れの中にいる人も。だけどきっと大多数の人が無意識の内にこう感じているはずだ。すべてを手に入れることは出来ないのだと。

すべてを手に入れることが出来ないとすれば、そして確固たる何かを見つけられないとすれば、どうすればいいのか。私にはここ数年、ずっとそれがわからなかった。わからなくて、川の中で服を着たままもがいているような感覚でいた。だけどあの日「彩り」を聞いた時、それまでもがいていたのが嘘のように私は悟った。それは私の日常にあったんだと。端から見ればつまらないような日々の作業の喜びのかけらが降り積もって、「すべて」になるのだと。そしてそれは、そんなに悪いことではないじゃないかと。私のした単純作業が誰かの役に立つこと。メールを出した相手がメールを返してくれること。空が青いこと。風が心地よいこと。そんな一つ一つが、少しずつ、すべてになっていく。

私は多分、あの新宿発の満員電車の中で「彩り」を聞いた時、自分が大きなことを成し遂げるような人間ではないと、無意識に受け入れたのだと思う。そして同時に、それがそんなに悪くはないということも実感したのだ。だからあの時感じた涙は、悔し涙であり、嬉し涙だったのだと、そう感じている。

私の「彩り」は、まだ始まったばかりだ。