それから

ちょいと読んでかない?

ポリシー

 ふと思い出したことがあった。昔、転職する前、大きな組織で働いていた時、私にこう言ってきた取引先関係の人がいた。
「お金に困っているなら定期的にご飯に連れってってあげるよ」と。妻に先立たれた(おそらく)五十代の男性だった。
「お断りします。私のポリシーに反するので」と、二十代前半の私は答えた。
 するとその男性は、「若いのにしっかりしているね」とますます私を気に入った様子だった。私は別にしっかりしていたわけじゃない。返事の通り、自分のポリシーに反することをしたくないだけだったのだ。確かにその頃の私は今より貧乏だったが、好きでもない人にご飯を食べさせてもらうほど飢えていたわけではない。幸いそれ以上何か執着されるということもなく、まもなく私はその職場を去ることになる。

 またひとつ思い出したことがあった。二回目のデートで、カフェでテイクアウトした飲み物のカップを手に散歩していると、土砂降りの雨に見舞われたことがあった。彼は傘と空のカップを手にしているのが煩わしくなったらしく、カップを道端に放置しようとした。
「それはだめでしょう。そこはゴミ捨て場じゃないよ」と、三十代の私は注意した。
 すると彼は、仕方なさそうにカップを放置するのをやめた。私は別に特別環境に配慮した生活をしているわけじゃない。好きな人が、自分のポリシーに反することをしているのが許せなかったのだ。私たちはその直後別のできごとで意見の対立があり、あっさりと別れることになる。

 私はたぶん、わがままな人間だ。でも厄介なことに、この自分のポリシーを少し気に入っている。