この世で一番美しい曲は、何ですか?
「この世で一番美しい曲は何ですか?」と誰かに訊かれたら、私は何と答えるだろうか。私の大好きなバンド、radioheadのボーカル、トム・ヨークはこう答えるみたいだ。「ビョークの『Unravel』だ」と。
美しい曲の定義は人それぞれだと思うけれど、私にとっての美しい曲とは、「自分の心の奥深くの、誰も開けようとしない、そこにあったことすら知らなかった部屋に淡い光を灯してくれるもの」だ。そしてその曲を聴いている時は、時間という概念を忘れ、自分と静かに向き合う事が出来る。今日は私にとってのそんな曲たちを、紹介してみようと思う。
「Motion Picture Soundtrack」radiohead(アルバム「KID A」収録)
トム・ヨークはビョークの「Unravel」をこの世で一番美しい曲だと言ったけれど、私にとってのそれはradioheadの「Motion Picture Soundtrack」かもしれない。
賛否両論を巻き起こし、バンドの転機になったと思われるアルバム「KID A」の最後を飾るこの曲は、美しいという言葉では足りない輝きと、透明感と、孤独感を放っている。静かに繰り返される「I think you're crazy, maybe(君はおかしいと思う、たぶんね)」という言葉が、じんわりと、けれど深く心を抉る。一人ぼっちでこの世に生まれて、一人ぼっちで死ぬ。そんなことを思い出させられる。でも、ちっとも嫌な気分じゃなくて、むしろその事実に心が安らぐような。私にとってこの曲は、そういう曲だ。
「Safe & Sound feat. The Civil Wars」(ハンガー・ゲーム-オリジナル・サウンドトラック~ソングス・フロム・ディストリクト12・アンド・ビヨンド収録)
ユニバーサル インターナショナル (2012-09-26)
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初めて聴いた時は、テイラー・スウィフトが歌っていると気づかなかった。某曲でネバーネバー言ってるテイラーとはひと味もふた味も違う雰囲気を味わえる。
得体の知れない不安に苛まれている人のために、子守唄を歌ってあげているかのようだ。ただ黙ってその声にこの身を委ねたい。
「宝石」タテタカコ(アルバム「そら」収録)
邦楽の中で私が最も美しいと感じる曲が、タテタカコの「宝石」だ。柔らかな歌声で紡がれる残酷なほど美しい歌詞が胸を打つ。
「氷のように枯れた瞳」「異臭を放った宝石」それはどんなものだろうか? 一瞬の戸惑いの後に、その言葉たちは驚くほどストンと心の中に滑り落ちてくる。私は知っている。氷のように枯れた瞳も、異臭を放った宝石も知っている。それは私の人生の中に「ある」。そう思うのだ。どうしようもないこの汚い世界の中で孤独に輝くものがある。そう信じたい自分がいる。それを思い出させてくれるのがこの曲だ。
「Never Is A Promise」Fiona Apple(アルバム「TIDAL」収録)
フィオナ・アップルは幼い頃に強迫性障害を患っており、高校は通信制高校に通っていたという。それはそっくり私と同じ経歴だ。だからなのか、彼女の歌はいつも私の心の一番奥深くに響く。彼女は、この世で最も孤独を知っている歌手の一人だと思う。孤独の中でもがき続け、叫び続けている。これは歌ではなく叫びだと私は思った。その姿のなんと美しいことだろう。「Never Is A Promise」はその哀しい美しさを堪能出来る曲だ。
「Unravel」björk(アルバム「Homogenic」収録)
トム・ヨークがこの世で一番美しい曲としてあげた「Unravel」は、私にとっても美しい曲として心の奥の暗い部屋に淡い光を灯してくれている。ビョークの声は「愛」そのものだ。愛を歌うのではなく、愛そのもの。ビョークと同じ時代に生きていることに大げさではなく奇跡と感謝を感じている。
こうして自分があげた曲たちを聞き返してみると、私が美しいと思う曲の中には、必ず孤独の影が潜んでいるということがわかった。孤独と美しさは相容れないように見えて、本当は最も相性が良い。そして多分孤独が美しいのは、孤独が絶望と愛の間にあるひとときの安らぎのようなものだからだと思う。孤独は孤独じゃない状態があるからこそ美しい。美しい曲たちは、そのことを私に教えてくれる。そして私に、愛へ向かう少しの勇気を与えてくれる。
あなたがこの世で一番美しいと思う曲は、何ですか?
※訂正・補足(2014.10.23)
Fiona Appleの「Never Is A Promise」をアルバム「真実」に収録と書いていましたが、こちらに収録されているのはオリジナルバージョンではなくライブバージョンです。オリジナルはアルバム「TIDAL」に収録されています。