それから

ちょいと読んでかない?

幸福な発見ーーオアシスのこと

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
ーー「風の歌を聴け村上春樹

完璧な文章も完璧な絶望も存在しないかもしれないけれど、完璧な音楽は存在している。私の心の中で、確かに存在している。私にとってのそれは、オアシスの「Whatever」で間違いない。以前、アルバム「モーニング・グローリー」について書いた記事(「モーニング・グローリー」オアシス - それから)の中で、こう書いた。

私は、ノエルの凄いところというのは、リアムの声を輝かせる曲を作れるところだと感じている(もちろんノエル自身が歌う曲も素晴らしいけれど)。自分自身ではなくて、人の声を輝かせる。それが労働者階級の傍若無人な兄弟の間で起こった。オアシスの奇跡って、多分そういうことだ。その奇跡は約137億年前にビッグバンが起こって宇宙が誕生した奇跡と肩を並べたっていいと思う。

その「奇跡」を最もよく表しているのが、「Whatever」という曲だと思っている。

オアシスは私が初めて「自ら発見したバンド」である。私がオアシスを「発見」したのは、確か18歳くらいの時だったと思う。当時のオアシスは6thアルバム(「ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース 」)をリリースした頃で、すでに世界的ビッグバンドであったし、むしろ1st(「オアシス」)、2nd(「 モーニング・グローリー)」)のヒットの熱も収まり、ベテランバンドとしての地位を確立しつつある頃だったと思う。
「発見」というのは、まだそこまで売れていない素晴らしいバンドに目をつけたという意味ではなくて、初めて自分から興味を持ち、CDを買い、ファンになったという意味だ。

私の父と姉は昔から洋楽好きで、幼いころから我が家には英語詞の曲が流れていた。父のお気に入りはクイーン、TOTOビリー・ジョエルジョン・レノン……(幼少期にジョン・レノンのソロアルバムを聞いていたせいで、未だに私の中ではビートルズジョン・レノンではなくてジョン・レノンのいるバンド、ビートルズという認識がある)。姉はロック好きでビートルズ以降のロックの歴史をほとんど網羅しているような人だった。

だからだろう、家族の中で一番年少である私は自分で音楽を「発見」するということはほぼなかったように思う。音楽は私にとって、既にそこにあるものだったのだ。
ロック好きの姉は、オアシスのことももちろん知っていた。「眉毛のすっごく太い兄弟がいてね」と姉から言われた時が、私がギャラガー兄弟を認識した最初の瞬間だったと思う(そこかよ)。
それでも、姉はオアシスにはそこまでハマることはなかったようだ。姉がオアシスを聴いていたと思われる時期、私はちょうど実家を離れて一人暮らしを始めたので、実家でオアシスの曲が流れていた時に私はそこにいなかった。したがって、オアシスは私にとって「既にそこにあるもの」にはならなかった。

それはきっと、幸福なことだったのだろう。そう、それから少しして、私はオアシスを「発見」する。きっかけは、映画学校の課題で制作するショートムービーにつけるための曲探しだった。何か素敵な曲はないかとCDショップを訪れた際に、私はふと思い出す。「そういえば、オアシスっていうバンドがいたっけ」と。そして私はアルバム「モーニング・グローリー」を手にすることになる。

私は彼らの音楽に夢中になった。オアシスは、18歳の私の心の扉を強引にこじあけてずかずかと踏み入ってきた。それは傍若無人な彼らの振る舞いとそっくりだった。それがとても幸せだった。私は幸福な「発見」を、初めて成し遂げたのだ。落ち込んだ時に何回彼らの曲を聴いたかしれないし、初めてオアシスのライブに行き、「Don't Look Back In Anger」を大合唱した時の幸福感は、今でも昨日のことのように思い出すことが出来る。

けれどそれから約5年後の2009年8月、ノエル・ギャラガーは突如としてオアシスから脱退してしまう。それと同時にオアシスは事実上の解散となり、私はしばらくの間悲しみに暮れた。

勝手に心を持っていかれたくせに、勝手に悲しんでいる。そんな自分が、さらに言うなら全世界のオアシスファンが、滑稽で、そして今は愛しい。

さらに約1年後、解散を惜しむように、オアシス初のシングルコレクション「タイム・フライズ…1994-2009 」がリリースされる。

タイム・フライズ・・・1994-2009
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私が「オアシスは解散したんだ」と思い知らされたのは、このアルバムに「Whatever」が収録されているのを知った時だった。それまでシングル「Whatever」は、どのアルバムにも収録されない孤高の名曲だった。ノエルが脱退したことよりも、リアムが新しいバンド(Beady Eye)を結成したことよりも重く、その事実は私にオアシスの終焉を告げた。

オアシスとはなんだったのだろう。明確な答えなんてないし、考え出したらきりがない疑問を持ちながら、私は今日も彼らの音楽を聴いている。だけどひとつだけ言えることがあるとすれば、オアシスは私にとって幸福な発見を体験させてくれた、紛れもなく最高のバンドだということだ。

「Whatever」を聞くと、どんなことをしても何を言ってもいいんだよ、とリアムに(珍しく)優しく言われている気分になるんだ。

だから私は言おうと思う。
ずっとずっと、オアシスのファンでいさせてくださいと。