骨盤と人生
最近、ダイエットをして約8kg体重が減った。これくらい体重が減ると、さすがに自分でも身体が薄くなったと感じる。顔とか、お腹とかはもちろんだが、意外にもいちばん痩せたことを実感する部位は、骨盤である。違う、骨盤は痩せてないな、骨盤の周りの肉が減ったから、仰向けに寝た時の骨盤の存在感がすごい。あれ、お前居たの? みたいな感じで、がっつりとそこに骨盤と言う名の骨があることがわかる。君の名は、骨盤。
そう言えば昔、知り合いが、拒食症の女の子と付き合った時の話をしていた。彼女と付き合っていた時、何が大変だったかって、セックスの時に彼女の骨盤に自分の身体が当たると物凄く痛いってことだよ、と話していた。へえ、と思った記憶があるが、だから何という話でもある。今書いていても。そんなことよりもっと大変なことがあったんじゃないかと思うんだが、その知り合いはシリアスになりたくなくてそんな話を披露したのだろうか。飲みの席で。みんなを面白い気分にするために? それにしちゃなんか悪趣味だし知識としても使いようがないし、なんか変に頭の片隅にお風呂の黒カビみたいに残る話だな。
私も、もう会うこともない男性から、「昔付き合ってた女がさぁ」と言った具合にネタにされているんだろうなと思うと、なんだが不思議な心持ちになる。私の亡霊みたいなものが、どこぞの知らない居酒屋の空間を、煙草の煙のようにたゆたっている感覚になる。
そんな風に、みんな誰かの亡霊なんだ。知らないところで。それが生きるってことなんだ。ただそれだけで、この話にはなんの教訓もない。意味のない話をする。その点では、私はあの拒食症の女の子と付き合っていた知り合いと同じようなものだ。
拒食症の女の子は、今、どうしているんだろうか。会ったこともないのに、そう思う。
元気でいるといい。骨盤が適度に脂肪に隠れるほどに回復して、元気でいてほしい。そうでなくても、生きていてほしい。一度も会ったことがないのに、そう思う。それはたぶん、私が人間で、今日も生きているから。
人生って、Facebookの「基本データ」欄みたいに、どこで生まれたとか、どこの学校を出てどこに勤めているかとか、そういう情報だけで出来上がっているわけじゃない。こんな風に、骨盤から何かを思い出したり、会ったこともない人の幸せを願ったり、そんな、訳のわからない、繋がっているんだか繋がってないんだかわからない記憶や想いの積み重ねなんだ。他の人にはどうだかわからないけれど、私にはそれが、とても愛しくて、かけがえのないものなんだ。
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何年か経って、このアルバムを聴いた時、こんな文章を書いたことをふっと思い出すかもしれない。そういう関係ないようで関係ある記憶が呼び覚まされるのが、今からほんのり楽しみだ。生きる楽しみ方がそんなんでもいいじゃないかと最近思う。