それから

ちょいと読んでかない?

バンドが解散するということ

あなたには、解散して欲しくなかったバンドはあるだろうか?


2019年が終ろうとしている。
無性に何か文章を書きたくなって、きっとこれが今年書く最後のブログになるだろうから(と言うほど更新なんてしていないけど)、何を書こうかなと考えた時に、そう言えば、NICOのことを書いていなかったなと思い出した。まとまりそうにないから、無意識に避けていたのかもしれない。


NICO Touches the Walls。2019年11月15日終了。



彼ら自身が「解散」という言葉を使わず「終了」という言葉を使っているので、私もそう書いておく。けれど、実質解散と言って良いだろう。
公式のアナウンスはオフィシャルサイトに連名でアップされたメッセージだけ。15年活動したバンドの最後にしてはかなりあっさりしたものだ。
発表直後、ファンの間では、「『終了』と言ってるんだから『解散』ではないのかも」という希望的観測も流れたが、これを書いている12月27日現在で残念ながら彼らの時は文字通り止まったままだ。
彼らの物語は、終わったのだ。


私にとってNICOは、間違いなく今まででいちばん夢中になった日本のバンドだ。
それまで父と姉の影響で洋楽ばかり聴いていた私に、日本のロックの素晴らしさを教えてくれた。
1stフルアルバムの頃から聴き出して、ツアーがあれば毎回友人と繰り出した。彼らは初めて私に、スタンディングのライブの興奮というものを味わわせてくれた。それまで私にとってライブとは席があり、一人一人の観客のスペースが確保された状態で観るものだった。それをぶち壊したのが彼らのライブだったのだ。
時には人波に飲まれそうになりながら、同じ音を愛する人々と肌を触れ合わせながら聴く彼らの曲は、何にも変えがたい多幸感をもたらしてくれた。


彼らは紛れもなく素晴らしいライブをするバンドだったし、なおかつ稀代のメロディーメーカーだったと私は思っている。
特に1stフルアルバム「Who are you?」と3rdアルバム「PASSENGER」のバラエティに富んだエモーショナルな楽曲の数々はNICOの稀有な才能を物語っている。

Who are you?

Who are you?

PASSENGER(初回限定盤)(DVD付)

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だけど、ファンが思っていたほど、そしてこれは推測にすぎないけれど恐らくーー彼ら自身が思っていたほど売れなかった。
私は彼らのファンであった間、ずっと彼ら自身から「売れたい」という気持ちを感じ取っていた。そんなのは、商業音楽をやっているアーティストなら皆思うことだろうけれど、それでも他のどんなバンドよりもそれを強く感じた。そしてその気持ちと現実の知名度・ランキングとのギャップにもどかしさを感じているようにも。
「早く売れてくれ」
そう何度思ったことか。本人たちがきっといちばん売れたいと思っているだろうに。
無責任にも、私は、何度も思ったんだ。それは願いではなく、少し怒りにも似ていた。
それほど、NICOが好きだったから。


彼らは、メッセージの最後に「さあ、『壁』はなくなった!一度きりの人生、どこまでも行くよ!(原文ママ)」と言っている。
彼らの「壁」とはなんだったのだろうか。
もしかしたら、「売れたい、でも思うように売れない」ということじゃなかったのか、と思ってしまう自分がいた。
そうだとしたら、そこから解放されてほっとしているかもしれない彼らがいるのだとしたら、「終了」は悲しむべきことではないのかもしれない。
だけど、彼らの潔さとは裏腹に、まだ私の心の整理はつかない。
無責任にも、音楽なんてものに人生を重ねすぎる性分のせいで。


たとえバンドが解散したりアーティストが引退したり、果ては死んだとしても、作品自体は残り続ける。そのことはわかっているのだ。
私はマイケル・ジャクソンをその死後好きになったし、ビートルズだってクイーンだって永遠だ。
だけど、やっぱりもっとNICOの未来を見たかった。この先彼らがどんな音を奏で、四人で一緒にどう年老いていくのかを見たかった。それも紛れもない真実なのだ。


つい先日、NICOのライブに何度も一緒に行った友人の家に遊びに行った。初めて彼女の2歳になる息子に会った。あの、ライブ中飛び跳ねていた彼女からは想像もつかないほど、彼女は家庭的な母親になっていた。


もうNICOはいないんだな。そう思った。
私だけがまだ、あったかもしれない未来を想像して取り残されている。


あなたには、解散して欲しくなかったバンドはいますか?