それから

ちょいと読んでかない?

ビートルズは唯一の魔法ーー「イエスタデイ」

イエスタデイ (字幕版)

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  • ヒメーシュ・パテル
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あらすじ(「ぴあ映画生活」より引用)
イギリスの海辺に住む、売れないシンガーソングライターのジャック。スターの夢を諦めかけた彼は、ある日交通事故に遭い昏睡状態に。やがてジャックが目を覚ますと、なんと世界には史上最も有名なバンド、ビートルズが存在していなかったことになっていて……

だいぶ前に、このブログでこんな記事を書いていた。
www.sorekara.tokyo
なんかこの記事に書いた私の妄想を映像化したような映画だった(というより「僕はビートルズ」って作品もあるし、誰でも一度は考えることなんかな)。

人生には、ビートルズを聴きたくなる夜ってのが必ずある。少なくとも、私には、定期的に訪れる。そんな夜はどういう気分かっていうと、単純に悲しいとか辛いとかそういうんじゃなくて、なんていうのかな、もっと人生の苦さだったり渋さだったりそういうのに触れた、または浸りたい時が多いような気がする。うまく言えないけど、ビートルズがすべてを包み込んでくれるのを期待しているとでもいうか。ビートルズは私にとってファンというより生まれた時から既にあった唯一の魔法みたいなものだ。


この作品では、突然「自分以外ビートルズの存在を知らないらしい」という状況に立たされたジャックが、ソロアーティストとしてその音楽を人々に届けることでどんどんスターになっていく。だけど、現実にそんなことが起こったとして、スターになるかどうかはわからないなと思った。


なぜならビートルズにはレノン&マッカートニーという天才二人がいて、静かなる奇才ジョージがいて、彼らを繋ぐムードメーカー・リンゴがいるからだ。そのルックスやケミストリー、物語を抜きにして、つまり単純に彼らの作ったメロディーを焼き直すだけで世界中の人を魅了することはできるのだろうか。実際のところはわからないけれど、この映画の中ではビートルズの楽曲自体に力があるということで割とすんなりスター街道を突き進んでいくので、やや物足りなさを感じなくもなかった。もしそれを示すのなら、もっと「こういう理由だからビートルズの楽曲には魅力がある」というのを解説してほしかった。そこはこの映画の作りにおいては主題じゃないから端折ったんだろうけど。だってこの映画はラブストーリーだからね。もしジョン・カーニーが監督だったら違う撮り方をしそうなどと思った。


エリーがジャックに惹かれている理由もいまいち弱い気がしたし(音楽の才能以外の何かジャックに惹かれる要素が欲しかった)、変人ロッキーが付き人になり、良いやつとして相棒になっていく過程もなんか中途半端だし、クライマックスもなんか大味でビートルズの音楽の大胆さと繊細さから繊細さだけごっそり抜き取りました、みたいな感じではあるんだけど、年のせいなのか、人が幸せになる映画は単純に気持ちが良くて。こうして今ビートルズを聴きながら割と機嫌よくブログを書いている時点でまあ見て良かったかな、と思えた映画。

2020年のこの世の中にあって、ビートルズを聴ける幸せを噛み締めて。
改めて、ビートルズのある世界に生まれてよかった。